THIS FILM SHOULD BE PLAYED LOUD!

今日はマーティン・スコセッシ『The Last Waltz』
いわずとしれたザ・バンドのラスト・コンサート('76)を収録したドキュメンタリー。
タイトルは映画の冒頭に出てくる注意書き。映画館の映像技師への注意事項だとのこと。

中身の音楽についてはここで言及しなくても、多くの方が知っているはずなので省略。
ココでは映画としての『The Last Waltz』について思ったことを少しばかり書いてみます。

初めて見たのは、たぶん高校生の頃。深夜映画で見たんです。
当時はザ・バンドの曲もほとんど知らずに、ニール・ヤングジョニ・ミッチェル目当てだったんですが、ただただ感動。


2回目は数年前にビデオを借りて。


そして、今回は2001年にリリースされたDVD。DVDならではの特典として、

  • ①未公開シーン ジャム♯2
  • ②「ラスト・ワルツ再訪」というインタビュー
  • ③ロビー・ロバートソンとマーティン・スコセッシ監督の音声解説
  • ④スタッフやミュージシャンたちの音声解説

などがついている。

①はフィナーレの「I Shall Be Released」が終わっても帰ろうとしない
観客の前でリンゴ・スターレヴォン・ヘルムのドラム合戦から始まったジャムの演奏。
本編には登場していないスティーヴン・スティルスの姿も見える。


②は25年後の2001年に、ロビーやスコセッシが映画が出来るまでの思い出を語るドキュメンタリー。

③は映画の進行にあわせて、プロデューサーでもあるロビーとスコセッシが撮影の裏話をするもの。

④はガース・ハドソン、レヴォン・ヘルムDr.John、といったミュージシャンや
ジョン・サイモン、カメラマン、ツアー・マネージャーらによる裏話。



この②③④がきわめて面白い。
この映画が単なる撮りっぱなしのドキュメンタリーではなくて、綿密な計画によるものであったことがわかる。
7台ものカメラを駆使して撮っていたわけだが、とりあえず何でも撮って
後から編集するというのではなく、演奏する曲のすべての歌詞を書き込んだ台本があって、
歌詞ごとにカメラの位置、アングル、照明などもすべて決まっていたというんです。
その台本は3曲ごとにまとめられ、ぶ厚いものになっていたとのこと。
当日はスコセッシがカメラマンに無線を使って、事細かに指示をしていたらしい。


そのためコンサートは事前のリハーサルどおりに進められていったのだが、アクシデントが二つ。

一つはマディー・ウォータースが「Mannish Boy」を歌う場面。
マディとだけはリハーサルが出来なかったので、この曲は撮らなくてもよいと勘違いした6人のカメラマンが
フィルムのリールを入れ替えていたのだけど、わずかに1台だけが奇跡的にこの名演を撮っていたとのこと。
そのカメラマンは事細かな指示をしてくるスコセッシ監督の声がうるさくて、
ヘッドセットを外していたからだというのだから面白い。
もう一つはニール・ヤングが「Helpless」を歌う場面。
ジョニ・ミッチェルが印象的なコーラスをつけているのだが、
これはニールとロビーが急遽ジョニを誘ったらしく、台本には無かったらしい。
急遽、ハンディカメラ担当が照明なしでジョニを撮ったのだ。ジョニの姿は横顔のシルエットのみ。
でも、これが味のある映像になっているのだから不思議。


この映画、このラスト・コンサート自体がロビー・ロバートソンの独断で
進められていったことは、レヴォン・ヘルムが書いた『軌跡』という本に詳しい。
私もその本を読んだのだが、多少、差し引いたとしてもその多くは事実なのだろう。
実際に、このDVDでも③と④が別々に作られていることからもわかる。

このDVD、本編だけでも面白いのだが、②、③、④とあわせて見ていくと、一枚で4回楽しめるものに仕上がっている。
まだ見ていない米国音楽ファンは、ぜひDVDでご覧になってください。