重松清 『青い鳥』


重松清 『青い鳥』(新潮社/1,600円)読了。

青い鳥

青い鳥


重松清の最新刊。「ハンカチ」、「ひむりーる独唱」、「おまもり」、「青い鳥」、「静かな楽隊」、「拝啓ねずみ大王さま」、「進路は北へ」、「カッコウの卵」という8つの短編をまとめたもの。


この1年間、重松の小説を本当にたくさん読んだ。
出会いは国語の教科書に載せられていた「卒業ホームラン」だったのだが、
それから1年のうちに彼の著作の6,7割は読み終えたように思う。

彼の小説に出てくる主人公たちは、どこか疲れた中年男か、生きるのに不器用な少年であることが多い。
少年の25年後が中年男のようであり、中年男の子どもが少年のようであり・・。
中年男が主人公の場合、自分のことを深く考えるし、
少年が主人公の場合、わが家の子どもたちや職場の子どもたちのことに思いをめぐらす。


今回の『青い鳥』収録の8編に共通する登場人物は村内先生。
いつものようにさえない中年男だ。
彼は中学校の臨時講師。
国語の先生なのに、言葉がつっかえて、うまくしゃべれない*1
うまくしゃべれないからこそ、生きるのに不器用な少年たちに
本当に大切なことを話す。


「ハンカチ」では、言いたいことが言えず、言葉をハンカチに染みこませることしかできない千葉知子に、
「ひむりーる独唱」では、「土の中でとろけるように無になりたい」と願う白いカエルのような斎藤くんに、 
「おまもり」では、自動車事故で誤って人を殺してしまった父を持つ杏子に、
「青い鳥」では、級友をいじめによって転校させてしまったクラスの一人一人に、
「静かな楽隊」では、弱さゆえ、他人の顔色を見ながら生きていくしかできない私と、中学受験の失敗が原因で他人を見下すことでしか自分になれないあやちゃんに、
「拝啓ねずみ大王さま」では、父の自殺をきっかけに「みんな」が大嫌いになった富田くんに、
「進路は北へ」では、小さな穴にぎゅうぎゅう詰めのアナゴのようになりたくなくて、小中高大のエスカレーター校から、一人、外部の高校への受験を決める篠沢さんに、
カッコウの卵」では、親に愛されずに育ったてっちゃんに、


つっかえながら、つっかえながら、大切なことを話す。


いつものパターンだと、わかっていながら、ついつい話に引き込まれてしまうのだ。
そして、自分は「大切なこと」を生徒やわが子に話しているのだろうか?
自分は誰かにとっての「ムラウチ先生」になることが出来てきたのだろうか?
と自分に問いかけながら読み進めてしまうのである。
そういう点では、読んでいてつらくなるお話だ。

でも、重松の視線は常に優しい。
特にくたびれた中年男や、不器用な少年に・・。

*1:重松本人も吃音であり、吃音のせいで言いたいことを言えなかった少年時代の自分をモデルにした『きよしこ』という作品もある